『マルコポーロ』の旅路の果て【新保信長】 新連載「体験的雑誌クロニクル」17冊目
新保信長「体験的雑誌クロニクル」17冊目
しかし、1995年2月号をもって、同誌は強制終了となる。ある年齢以上の方ならご存じのとおり、その号に掲載された「ナチ『ガス室』はなかった。」の記事にユダヤ人団体が反発(当たり前だ)。文藝春秋の雑誌に広告を掲載する企業に出広停止を求めたほか、日本政府にも公式の非難を求めた。この要請を受けて、多くの企業が広告出稿を停止。文藝春秋は同誌の廃刊と当該号の回収、花田編集長の解任を決めた。
実はこの号の表紙には問題の記事の見出しはなく、もくじでの扱いも小さい。あまり大々的にやるとマズいという自覚はあったのだろう。一番目立つ見出しは「総力特集 このまま野放しでいいのか。外人犯罪白書。」であるが、これはこれで今の排外主義を先取りしたかのよう。この一件で文春を退社した花田氏が、いくつかの雑誌を経て『WiLL』『月刊Hanada』へと至ったのもむべなるかな、と思ってしまう。

ちなみに『マルコポーロ』が創刊された1991年には、同じく国際ビジュアルニュース誌として6月に『Bart』(集英社)、11月に『VIEWS』(講談社)が創刊されている。どちらも創刊当初は『マルコポーロ』同様のイラスト表紙(創刊号は『Bart』がゴルバチョフ、『VIEWS』がエリツィン)で、その後ビジネスマン向けの情報誌にリニューアルした点も共通だ。
また、91年6月には飲食文化情報誌だった『バッカス』(TBSブリタニカ)が、やはり男性向けビジュアル誌としてリニューアル。その編集長が、元『DAYS JAPAN』の土屋右二氏で、新装刊の抱負として「いわば『ヤング・デイズ・ジャパン』みたいな形の雑誌を作りたい」(『SPY』1991年8月号)と語っている。ここで冒頭とつながるわけだ。
『DAYS JAPAN』の志を継いだかのような『マルコポーロ』が、最終的に同じく記事のトラブルで廃刊となったのには因縁を感じる。新生『バッカス』も1年持たず1992年2月号で休刊。『VIES』と『Bart』も、それぞれ1997年、1998年に休刊となった。『DAYS JAPAN』の関係者が2004年に同名のフォトジャーナリズム誌を創刊したが、それも発行人だった広河隆一氏の性加害問題がらみで休刊。ビジュアルニュース誌というジャンル自体が、何かの呪いにかかっているのかもしれない。
文:新保信長